最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)659号 判決 1948年11月25日
主文
本件上告を棄却する。
理由
辯護人高梨光上告趣意第一點について。
(一)原判決は判示のごときメタノール含有のアルコールを「飲用に供する目的を以て譲渡」した犯罪事実を認定したものである。所論有毒飲食物等取締令第一絛第一項の「飲食物」は、所論のごとく「販賣の用に供する飲食物」に限定すべき理由なきのみならず、原判決は同絛第二項を適用したものに過ぎないから、第一項の字句の意義如何は全然本件には直接の関係がない。
(二)原判決の認定した飲用に供する目的をもって譲渡したとの事実は、その擧示の證據によりこれを肯認し得る。譲渡が有償であるか無償であるかは本件犯罪の成否に関係がないから、その何れに属するかを判示しなくとも所論のごとく審理不盡ということはできぬ。所論證人竹内やすの供述は原審の證據として採っていないものである。かかる證據の取捨を非難するは上告適法の理由とならない。
(三)(四)製造元も明らかでなく、又その性質も判らない殊に本件のごとく工業用としての品質不良のアルコールを他に飲用として譲渡するには、確実な方法によってその成分を檢査し飲用して差支えないものであることを確かめる義務のあることは言うまでもないところである(昭和二三年(れ)第五六六號同年八月一一日第一小法廷判決)。從って原判決が所論の注意義務ありと判示したのは正當である。被告人が所論のごとく本件アルコールを水で三倍に薄めたというだけではこの注意義務を果したものとはいえない。(その他の判決理由は省略する。)
よって刑訴第四四六絛に從い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)